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そしていま、瞬きの中で。

そしていま――新しい部屋で、空気を入れ替え、
 瞬きする「いま」を味わっている。 その幸せ…。
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戌の年も、早や4月も半ば。
すでに桜は散り、薄紫に染められた藤棚からは、幾重もの房が風に揺れている。
1週間もすればゴールデン・ウィークだ。

この3ヶ間、めまぐるしく過ぎていった。
1月末に住み慣れた桜台から堀切菖蒲園へ引っ越しをした。

ようやく引越しの挨拶を終え、ほっとするまもなく、3月31日、4月1日、横浜赤レンガ倉庫ホールで、シャクティ&ヴァサンタマラ舞踊団の定期公演「シェヘラザード&ジョー」の舞台に立った。

今回は2部構成。1部はシャクティ&ヴァサンタマラ舞踊団の「千夜一夜」、2部は、ゲストにお迎えしたアメリカの現代舞踊家、ルイス・カヴラス氏の「ジョー・リバー」である。

シャクティは観客の魂を震えさせ、五感に訴えてくる。相変わらず凄い踊り手だ。

彼女と出会った頃、火のようなエネルギーを感じ、その舞踏に圧倒させられた。
いまは火だけでなく、水を、風を、光を、闇を、大地を、空を、宇宙の塵芥を感じさせる。
そして、、ここに存在することの不思議さ、楽しさ、宇宙の真理について考えさせられる。

舞台は幅1,5mほどの階段と、天井から吊り下げたサリーのような何色もの長い布のみ。
それを揺らし、それを体に巻きつけ、それに掴まり、それで空を飛ぶ。
観客はそれぞれの心を投影し、自分なりの解釈で「千夜一夜」を見ることになる。

シャクティはかるがると、創作舞踊の真髄を見せる。
「わたしたちは、みな宇宙の一片の存在よ」、「そして、ちっぽけでも、ここにいるわたし、そこにいるあなた、石も木もすべてのものみな宇宙の中心なのよ」とーーー。

かたやルイス氏の舞踊は、映像と語りのコラボで現代の普通の男・ジョーのいまを、日記風に切り取ってみせる。学生時代のジョー、踊り手になろうとしたジョー、同性に興味を抱き、失恋するジョー、旅するジョー――ー。いまは断片となって、川のように流れてゆく。

舞台には、手のひらサイズの玉がいくつも、無造作に置かれている。
スクリーンに映し出される四季折々の風景はモノトーン風で、過去からいまへと疾走してゆく。
そして時折、玉が光りはじめ、ルイスは玉を拾い別の場所へと移動させ、流れゆくいまの断片を惜しむように、ひとところへまとめたり、いまの束縛から逃れるように、玉をあっちこっちへと離したりする。

ルイス氏もまた、彼が培った現代舞踊の技法で、ひとりの生、ひとつのライフを見せてくる。
「ぼくは誰でもない、ぼくはぼく」と叫ぶジョーの声が、時折、フラッシュバックのように浮かび上がる。

過去から現代へ、いまを流れるジョー。
過去も未来も、すべての時を物語にかえるシェヘラザード。シャクティとルイスは、「いま」の素晴らしさを、その肉体で表現し、観客を魅了した。


背筋を伸ばして ――天と地をゆき交う風

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2007年2月17日(土)曇り
 物語に始まりと終わりがあるように、人生もまた。

先月、1月15日23時すぎ、舞踊団のゆうこがあの世へと旅立った。
同じ舞踊団メンバーの久美子と私が、そのことを知ったのは翌16日の夕方。死因は急性心不全。

「元気だった頃の印象のままで…」と、彼女は一切の見舞いを断った。わたしたちはその意思に従うしかなかった。昨年1月末、目と脳の検査入院から、ホスピスの病棟で亡くなるまでの1年間、見舞いに行くことは叶わなかった。

脳のどこが悪いのか? 今の医学では理由が見つからなかった。半年間は、薄れ行く意識、鈍くなる動作を、否応なく見詰めるときだったろう。彼女のそのときの心情はどのようなものであったろう…。

ゆうこは立派な体をもっていた。身長1m62cm、女性には珍しいほどの筋肉質。肌の色は南の国の人のように浅黒く、胸はバーンと張って大きかった。早稲田大学時代、倶楽部に体育会系の登山部を選んだだけあって、重い荷物を持っても見劣りはしない。しかも頭脳は明晰であった。
(私の母は彼女のことを密かに紀香と呼んでいた。あの藤原紀香である。)0506_114


踊りを彼女が始めたのは20代半ば。外国語学校に勤めていた。4、5年経ったころだろうか、彼女はをその学校の運営引き継ぐことになり、以来、校長であり、舞踊団員という暮らしを22年続けたのである。

家は国分寺、学校は吉祥寺、スタジオは堀切菖蒲園。ハードな日々ながら、校長になる前と変わることなく2時間かけてレッスンに通い、舞踊団員として海外公演にも赴いた。一度も弱音を吐かなかった。

バランス感覚のとれた素晴らしい女性であった。


17日、シャクティが豪州より帰国し、20日の告別式で弔辞を述べた。ゆうこはシャクティが海外から戻る日を図ったように息をひきとった。その意志の強さにあらためて驚く。

弔辞の中で、シャクティは
「始まりは終わり、終わりは始まり。どこかでまた会うと思う。これからも、わたしたちと一緒に旅をしよう!」
と、遺影に語った。

棺の中の彼女は「眠れる森の美女」であった。
シャクティとお揃いの、紺地のサテンのスリップドレスを着ていた。

「さようなら、またね…」
彼女の頬にそっと触ってこの世のお別れをした。仕事で来られなかったゆかの分もこめて触った。ゆうことペアを組むことの多かった久美子は広い肩を小さく揺らしため息をついた。亜矢はいつものように静かだったが、コホッと咳き込んだ。はなは子供のように号泣した。

「さようなら、またね…」
もう一度つぶやいた。京都の舞踊団、F1、F2ちゃん、ヴァサンタ先生、そこに集えなかったみなの思いもこめて。

戒名は「麗雪裕薫大師」。
後日、お母さんから焼き場で雪が降ったと聞いた。「裕子の霊だろうか」と話し合ったという。

それにしても、ゆうこは最後まで背筋を伸ばして生き切った。弱音を吐かず、微笑みの記憶をわたしたちの中に植えつけて…。

風が吹く日、空を見上げると、天と地をつなぐなが~いサリーが幾重にも揺れている。
裕子とわたしたちをつなぐ道。
「さようなら、またね…」

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